日本の根管治療の再発率と実情
日本の根管治療の再発率と実情
日本の保険診療の費用は、先進国のなかで類を見ない低水準に設定されています。とくに根管治療は診療報酬が低く、回数・時間をかけて治療をすると、大きな赤字になります。日本の保険診療は、世界と比較して類を見ない低水準な診療報酬に設定されています。先進国で平均10万〜20万円程度、発展途上国であるマレーシア・フィリピンでも6万程度の根管治療費が発生します。それだけ世界的に根管治療は重要視され、歯を残すために必要と考えられていることが見てとれます。そんななか日本は一万円を切ります。あまりに破格な診療報酬では、時間をかけることは現実的ではなくなり、質も低くなってしまいます。

世界と比較した根管治療費の比較
アメリカ20万円、イギリス10万円、フランス44,000円から117,000円、イタリア15万円(1000ユーロ)、ドイツ前歯の根管治療:約300~500ユーロ(約36,000~60,000円)奥歯の根管治療:約800~1,500ユーロ(約96,000~180,000円)、カナダ 前歯の根管治療:約1,200カナダドル(約10万円)奥歯の根管治療:約1,400~1,500カナダドル(約12~13万円)、マレーシア約1,800リンギット(約54,000円)、フィリピン6万円、日本は保険診療で約3,000〜10,000円程度となっています。
保険の制限内の根管治療は診療報酬が低いことから、一人の患者さんの治療に長い時間をかけることができません。治療時間が単に短いだけでなく、同じ時間で複数人を並列して治療することも一般的です。30分間の予約時間に2〜3人並列して治療されることも日本の歯科医院では当たり前の光景です。実際どのくらいの時間で根管治療が行われているかの全国を対象にした調査があります。臨床経験5年以上の歯科医師が対象で、大学病院29施設と個人歯科医院216施設で行われた調査です。
その調査によると、
日本の根管治療は、定期的なクリーニングよりも短い時間
14.4分〜26.8分
1で行われていることがわかりました。


2016年日本歯科医学会 歯科診療行為のタイムスタディー調査
極端に短い時間で行われていることがわかりました。根管治療はエビデンスにのっとって治療すると90分でも短い場合があります。それをわずか20分程度で完了するのです。某チェーン牛丼店では一人当たりの滞在時間が15分〜30分程度であるというデータもあります。例えるならば、牛丼を食べている時間で治療が完了するということです。一生もとに戻らない不可逆な治療なのに短時間で行わないといけない状況なのです。日本の歯科医師が手を抜いているわけではなく、制度に限界があるということです。
治療の工程は本来複雑で長時間かかるものですが、短時間で簡易的に行われがちです。保険制度の制限により限られた器具・材料しか使うことができません。また、仮に器材薬剤が十分に揃っていても、10〜30分と限られた時間で行われることが多いため、多くの器材・薬剤を使って複雑な工程を踏む時間がありません。治療の工程が自由診療と比べると大幅に削られてしまいます。
1.感染対策として初歩的かつ大切な"ラバーダム"すら行われない不潔な環境
ラバーダムをするための前処置(隔壁処置)が保険適用外なので行えないし、行う時間がありません。ラバーダム防湿自体も保険適用外でできないので、唾液が根管の中に入り感染させながら治療が行われてしまいます。日本歯内療法学会でも米国歯内療法学会でも、根管治療中のラバーダムは必須、と共通の見解を示しています。実際アメリカでは、ラバーダムをせず根管治療して、後々感染した場合、歯科医院側が訴訟で負けると言われるほどです。
他にもラバーダム以外の他の感染対策に必要な工程も省かれます。
参考文献
2.それぞれの治療工程を素早く行わなければならないので、治療が粗雑になってしまう
例えば根管形成では削らなさ過ぎたり削り過ぎてしまったり、根管洗浄では洗浄液が奥まで届かなかったり、根管充填では緊密につめることができない、などがあります。
治療の工程ごとにエラーが起こりやすく、根管治療では一つのエラーが致命傷になりかねません。
また、保険の制限内の器具・材料だけしか使うことができないので、時間をかけても質に限界があります。
3.一本の歯の治療に、何回も通院することにより、通院期間中に感染する
時間をかけないと治りませんが、かといって保険の制限内では、一回の時間をかけることができません。その結果、何度も治療をすることになります。5回以上通ったり、場合によっては、何ヶ月も根管治療だけで通っていた、なんてことは大して驚くことではなく、日本では当たり前に聞くことです。
治療期間中に行われる仮封(穴を一時的に封鎖する仮の蓋)をしているうちに感染しやすくなります。簡易的な仮封は容易に隙間から唾液が歯の中に入り、中で細菌が繁殖し感染します。
根管治療の回数がかかればかかるほど、また期間が長くなればなるほど、感染しやすくなります。また、治療時間が短いことから、取れやすく簡易的な仮封の方法で行われることが多いのも感染しやすくなる原因になります。
参考文献
4.歯は小さいので、歯の中が見えないまま、歯の中を削り進めないといけない
歯は、6mm〜1cm程度ととても小さく、5cmほどしか開かないお口の中という、暗闇のなかにあります。しかもそれでなくても見えにくいその歯のさらに中に根管は存在しています。そんななか、手探りで盲目に近い状態で、一つの間違いが抜歯に直結する不可逆な治療をするわけです。
また、CTをとることが少なく、歯の内部の根管の形態の状況もわからないままやみくもに治療が進みがちです。根管治療に長けた歯科医師でないとCTを撮影したところで正しく読影できないこともあります。
根管治療が終わったあと、コア(土台)で穴を埋め、その上から被せものを被せることで歯が完成します。しかし、たとえどんなに質良く根管治療ができていても、上からの封鎖する方法に問題があると、コア(土台)や被せものの隙間から細菌が中に入り込みます。どんなに精密に根管治療がされて中が清潔になっていても、外から細菌が入ってきたら必ず感染し、根管治療がまったく意味のないものになってしまいます。また、コア(土台)の方法によっては、せっかく根管治療した歯が折れやすくなってしまうこともあります。そのため、根管治療が終わったあとは、なるべく歯に負担をかけず、コア・被せものを歯に精密に接着させることが大切です。接着されて完全に密封されていると、細菌が隙間から侵入するのを防ぐことができ、再感染を防止することができます。
そもそも根管治療は、深い専門的な知識・技術・経験値、が必要です。習得に膨大な時間がかかります。しかし、そうはいっても、他のいろいろな治療に日々追われ、そこまで手が回らないのも現実です。根管治療に強い歯科医院へ紹介しようとしても、根管治療専門のクリニックが遠方であったり、数が少なく近くになかったりもします。かといって大学病院に紹介すると、自院の大切な患者さんが、どの歯科医師に当たるかわからず、駆け出しの歯科医師が診ることが多いこともよくわかっているので、送ることを躊躇してしまうこともあるようです。
