根管治療が難しい理由
根管治療が難しい理由
根管治療は歯科治療のなかで最も難易度の高い治療の一つと考えられています。実は、少しの間違いが抜歯に直結してしまいます。歯は、6mm〜1cm程度(小指大)ととても小さく、5cmほどしか開かないお口の中で、かつ、奥の暗闇のなかにあります。そんななか、一つの間違いが抜歯に直結する不可逆な治療を、手探りで盲目に近い状態でしなければなりません。
根管治療を簡単にまとめると、①根管形成→②根管洗浄→③根管充填の主に三つのことをしています。他にもいろいろな工程がありますが、これらのどれも抜歯に直結する難しさがあります。
根管形成は、元々の細い根管の形態を壊さないようにドリルで削って広げる処置です。目的は、そのあとの根管洗浄で、根管のなかに洗浄液を届けるために行います。歯は、6mm〜1cm程度(小指大)ととても小さく、口の中の暗闇の中にあります。そんななか顕微鏡などがない場合、歯の中にドリルをほぼ盲目的な状態で入れます。根管の中は肉眼ではほぼ見えず、盲目に近い状態での治療を強いられます。見えないなか根管の中にドリルを進めるので、削り損じが起こりやすく、少しの間違いが抜歯に直結します。それに加え、根管は非常に細く、ひとそれぞれ個性的で複雑な形態をしています。複雑な形態を熟知していないと、ドリルで根管の途中でとまってしまったり、ドリルが間違ったところを突き抜けてしまうことがあります。もちろん削り過ぎてしまった場合、一生もとに戻すことはできず、抜歯に直結します。
参考文献

穴があいたところは炎症がおこり根管形成できなかったところは洗浄できないので感染します。
その結果、根管の先が膿んでしまいます。
根管洗浄は、根管の入り口から先まで洗浄して、根管の中の病原菌、歯髄、根管形成のときに出る削りカスなどを溶かして、根管の中を清潔な空洞にする処置です。しかし、根管の入り口から先まで洗浄液を満たすのは簡単なことではなく、細い根管の中に普通に洗浄液を入れていっても、途中で止まってしまいます。もちろん洗浄液が届かないところは感染するので、結果、根管治療が治らず感染して、抜歯に直結します。
参考文献
洗浄液が根管の途中で止まってしまい、根管の先まで洗浄できていない
洗浄して空洞になった根管の中に、詰めものを緊密に詰めて封鎖し、再感染しないようにします。ここで根管の中に詰めるときに空気が入りやすく、隙間ができやすいのです。また根管充填の材質次第では、隙間なく根管充填したつもりでも、経年的に吸収されていき、隙間ができてしまうことがあります。根管の中に密封できていない隙間があると、再び細菌が発育するおそれがあります。その結果、再感染を引き起こしてしまいます。

根管の中を隙間多く詰めてしまった場合

隙間で細菌が再び繁殖して、歯根の先が膿んでしまう
参考文献
歯根の先に膿んでいるからといって、すべてがすべて根管治療で治るわけではありません。場合によっては根管治療では治すことができず早めに抜歯をしたほうがいいこともあります。また、根管治療ができたとしても、根管治療で治るのか、外科的歯内療法をしないと治らないかも判断しなければなりません。そのためには診断するための口腔内の診査の方法や、レントゲン・CTの正しい読影の方法を熟知している必要があります。
根管治療を専門的なレベルにまで行えるようになるためには、根管治療のための勉強・技術習得に膨大な時間をかけなければなりません。そのうえで大学病院や根管治療専門の環境で長期間の鍛錬を積み、根管治療漬けの日々を送ることで、ようやく技術が身につきます。そして経験を積んでいくことでケースバイケースの戦略を正しくたてることができるようになります。どうしても一般歯科を行うとなると、根管治療のほかに、虫歯治療や歯周病治療、義歯、インプラントなど多岐にわたる勉強・治療を日々しなければならず、根管治療だけに時間を割いているわけにもいきません。そのうえ根管治療は専門性が高い難しい分野です。そういった意味で、根管治療を突き詰めることは難しいのです。
根管治療の治療工程は、保険の制限内の簡易的な治療に比べ、行う工程が格段に増えます。複雑な治療工程を熟知したスタッフが介助につかなければ、治療がスムーズに進まず、治療の質が落ちてしまいかねません。
保険診療中心で行われる場合、歯科医師が治療できる時間は、一般的に一人当たり10分〜30分が限界です。自由診療の根管治療は1人あたり60分〜120分ですが、保険診療であれば、その間に4人〜8人も患者さんを診ているわけです。保険治療中心のクリニックは常に患者さんが溢れかえり、突然1人に60分〜120分かければ、予約をとれなくなり、現場は大混乱になってしまうでしょう。
初回の根管治療の場合、解剖学的形態を意識しながら治療していけばうまくいきますが、2回目以降のやり直しの根管治療は一筋縄にはいきません。一度根管治療を受けることで、根管の中はすでに削られています。その削り方が正しくないと予期せぬところに歯根に穴があいてしまっていたり、根管ではないところが削って掘られていたりすることもあります。歯に骨と交通する穴があいてしまっていると修復が困難で抜歯になるケースもあります。また根管治療中に折れて器具が根管の中に残っていることもあります。それは前の診療所からの診療情報提供書などを患者さんが持参されればよいのですが、ほとんどのケースでありません。なので、根管治療をする歯科医師が前受けた治療も様々な情報から推測し、歯を修理していく必要があります。やり直しの根管治療こそ専門の腕の見せ所なのですが、初回に比べ、やはり格段に難易度は高くなるでしょう。
CTの全国の普及率は10-20%、顕微鏡は10%程度と言われています。このどちらも完備するクリニックはそれらのパーセンテージよりも少なくなるでしょう。また、CT・顕微鏡など高額な設備に加え、根管治療のためのあらゆる治療器具・小機械・薬剤を揃える必要があり、治療を導入しようにも敷居が高くなりがちです。
